第29期会長 会長就任にあたって

第29期会長 海保 真行

takahashi

Inaugural Address by the President for the Twenty-ninth Term

Masayuki KAIHO

2017年8月10日に開催された可視化情報学会通常総会ならびに臨時理事会におきまして、第29期の会長に推挙され、就任することとなりました。本学会は、昭和56年(1981年)に「流れの可視化学会」としてスタートし、平成2年には「可視化情報学会」として学会のスコープを拡げ、会員の皆様のご努力により発展してきました。このように長い歴史を有する本学会の会長への就任は、非常に重責を感じるところでありますが、学会の持続的な発展をめざし、最大限の努力をしてまいりたいと思います。会員の皆様のご支援・ご協力を何卒よろしくお願いいたします。

昨今では、IoT、AI、Society5.0などの潮流のもと、社会のオープン化・エコシステム化実現のための技術として、物理現象のみならず社会現象を対象とした「可視化」に対する期待が高まり、本学会の役割はますます重要となってきています。そのような背景のもと、本学会では、「可視化情報に関する研究の進展と知識の普及」「我が国における学術の発展」というビジョンを掲げ活動しています。

1つめのビジョンについては、「学会が行う事業の価値向上」と言い換えられると思います。皆様ご承知の通り、本学会では、会誌等出版物の発行、講演会・講習会の開催、学会賞等の授与、研究会活動など、様々な事業を推進しています。ここ数年、産業界の学会活動活性化をめざした学会賞の見直し・新設、会員の議論の場である講演会の活性化をめざした可視化情報シンポジウムと全国講演会の統合の決定など、渡邉好夫元会長、高橋桂子前会長のリーダシップによる学会としてのあるべき姿の議論のもと、様々な施策を実行に移してきました。ある意味、持続的な発展に向けた学会の転換期と言っても過言ではないかもしれません。例えば、講演会統合については、統合後のシンポジウム企画の具体化だけでなく、今後、全国講演会の特長を残しつつ持続的にどのように開催していくのか、などの検討が必要です。その他、学会誌・論文集・研究会・講習会などの事業についても、今までの議論も踏まえて、事業の持続性・会員の皆様にとっての価値向上を考えた検討を進められればと思います。

2つめのビジョンは「可視化情報学が生み出す価値の向上」と言い換えられるかと思います。個人的なイメージですが、可視化情報学は、技術のSカーブで言うと、創成期を過ぎ、成長期に入ったところで、これから成長を加速していくフェーズだと思います。そのためには学問・学術としての体系化が必要と感じます。ただ、「可視化」という言葉は、広く世の中に普及しており、対象とする分野・現象があまりにも広い横断的な学問であるが故に、今は応用分野拡大の時期で、体系化の考え方・方針が定まっていないとも言えます。体系化のオーソドックスな考え方は、例えば、機械工学における4力学です。機械工学の成長加速期には、学問が4力学として体系化され、その周りに○○工学という応用側の学問が発展してきたものと想像されます。対象が広すぎてこのような技術分類的な体系化の考え方が難しいとすると、技術が生み出す価値ベースで体系化を考えるのも一つのやり方かと思います。最近の世の中は、大学も企業も、技術シーズ型から課題解決型にシフトしています。なかなか答は見つからないかもしれませんが、このような議論をしていくことによって、可視化情報学が生み出す価値の向上、さらには「我が国における学術の発展」に近づけることと思います。

さらに今期は、学会の運営基盤、すなわち、運営そのものの持続性・公共性についても、従来のやり方の良いところを残しつつ、改革を恐れず検討してまいりたいと存じます。

おわりに、残念ながら、現時点で、会員数の漸減傾向からは脱しておりませんが、学会全体の持続的な発展を命題として掲げ、上記の、事業としての価値向上、学問としての価値向上を基本方針として、短期的な施策だけでなく、中・長期的な施策を検討してまいります。そのためには、会員の皆様をはじめ、関係各位のご支援・ご協力が不可欠です。何卒よろしくお願い申し上げます。